“カバーズ”というTV番組で、斉藤和義が”俺たちの旅”を歌っていた。子供の頃は意味もわからず歌っていたが、歳を重ねた今聴くと考えさせられると語っていた。”俺たちの旅”は1970年代にヒットした青春ドラマで、主演の中村雅俊が歌っていた主題歌は小椋佳が作詞作曲をしている.。こんな詞だ。『夢の坂道は木の葉模様の石畳 まばゆく白い長い壁 足跡も影も残さないで たどりつけない山の中へ続いているものなのです / 夢の夕陽はコバルト色の空と海 交わってただ遠い果て 輝いていたという記憶だけで ほんの小さな一番星に追われて消えるものなのです / 夢の語らいは小麦色した帰り道 畑の中の戻り道 ウォーターメロンの花の中に数えきれない長い年月 うたたねをするものなのです』
改めて読んでみると、夢とは何の痕跡も残さずに消えさる永遠にたどり着けないものであり、輝いていると見えたものは一瞬のまぼろしで何の実態もなく、日々の暮らしに追われているうちに人は瞬く間に年老いてゆく、といったような内容だった。それは東大を卒業し、銀行に勤めながらヒット曲も書いていた、そんな頃にも通底にあった小椋佳の喪失と諦念なのだろう。
“酔生夢死”と何度か書いているが、本来の意味は『光陰矢の如し』や『少年老い易く学成り難し / いまだ覚めず池塘春草の夢』と似たようなものだ。酒を呑むということははしゃぐ事である。はしゃげない酒は哀しい。そのためには、はしゃぐ事を許容してくれる居心地のよい店があり、同じようにはしゃいでくれる顔なじみの人たちが必要だが、そんな場所や人もやがて消えていく。しかし猫といても、ひとりであってもはしゃぐことはできる。趣味嗜好とはそういうものだ。酔生夢死、はしゃぎながら生き、うたたねをするように死にたい。