年末の夜に’22  


『夜の夢こそまこと 人間椅子小説集』という本が、先日出版された。この”人間椅子”は江戸川乱歩の小説ではなく、 乱歩に影響を受けたバンドの人間椅子の事で、その楽曲を題材にして書かれたオムニバスの小説集である。1989~90年にバンドブームを起こしたイカ天(いかすバンド天国)というテレビ番組があった。そこから、今でもメジャーで活躍しているBEGINなど多くのバンドが生まれたが、人間椅子とたまからは強烈なインパクトを受けたものだ。上の映像は人間椅子イカ天の時の映像だが、現在は更に進化していて圧倒される(現在の映像は埋め込みができないので右のアドレスからみてもらいたい https://youtu.be/CbI79e5iZKs)。たまのメンバーも大編成の音楽集団”パスカルズ”への参加や、さまざまな形で活躍をしている。そんなバンドに出会いたく、今でも”MUSIC GOLD RUSH”のようなオーディション番組があれば観てしまう。そこでは、森田童子戸川純の末裔にはたまに出会えるが、奇妙なバンドはいない。今はきっと、どこかの闇に潜んでいるのだろう。
語っている本人もよくわかっていないだろうビジネス用語をいろいろな媒体で聞く。 それ自体が”自己啓発ビジネス”なのだろう。企業のイノベーションとは要するに、できるだけ恒久的な課金のシステムをつくることや、同じ原価の物をブランド化し何倍もの付加価値をつけるということにすぎない。合法的な搾取や詐欺の手口を考えろという事だ。国家もまた同じである。 人の住む場所を集約化し、社会インフラの費用を削る。根底にあるものはすべて効率だ。今では政治の言葉は人を思考停止にさせる空疎な呪文でしかない。議論の前提が出鱈目な”論破”という言葉などが罷り通ってしまう。女性の政治家が活躍してほしいと思うが、この国では醜悪な言葉ばかりが目立つ。ドイツのメルケル首相やアメリカのギンズバーグ判事は失敗もしたが、自由と平等の理念はブレなかった。メルケルの退任式で、軍楽隊が”ニナ・ハーゲン”の曲を演奏したのも印象的だった。今では威勢のいい言説ばかりが飛び交っているが、世界的な異常気象や人口増加に対する食糧安全保障に関しては、この国は驚くほど無防備だ。国内の農地は荒廃し、海外での買い付けは他国に負け続けている。そして人はまた単なる戦力や労働力にされていく。
有馬記念の馬券を買った後、リサイクルショップを冷やかしていると声をかけられた。振り返ると、旦那を連れたNだった。えーっ。店をやめてもう8年にもなる。おとなになったなあ。「また、どこかで」「そうだね」。その日は行ったことのない、誰もいない公園のベンチで日本酒を飲んでいた。気がつくと、バラバラと別々に老人たちがやってくる。みな男で軽い挨拶もしているので知り合いのようだが、それぞれの場所に離れて座っていた。誰かが大きな声で何かを言っているが、集まってきた鳩か、そこにいる誰かに向かって言っているのかもわからない。絶妙な野良猫の距離感だ。野良猫とはキワである。キワは失敗の先にある。その人たちがどう感じているのかはわからないが、野良猫の私には居心地が良く、楽しかった。みんな、元気か。私は変わらずにまだ、こうして生きています。