猫のいた日々


休日散歩から帰った深夜、猫は炬燵のいつも私が座る場所にいた。膝の上にのってきたので、それからまた一杯やっているうちに、そのままふたりとも眠ってしまった。昼頃は布団で寝ていたのだが、猫もノロノロとまた横にきて一緒に二度寝をした。しかしその夕方には、もう動けなくなっていた。前日に起きて風呂に入っていた時は、いつものように変わらず曇りガラスの向こうで、座って待っていたのだ。今年に入ってあまり食べなくなっていたので、今まではカリカリ以外は口にしなかったのだが、いろいろな食べ物を買って並べておいたがダメだった。最後の3週間は私が炬燵にいる時は、ずっと膝の上にいた。ついこの間まで、酒を飲んでいるとそのすぐ横に、咥えてきたネズミの小物をポトリと落とすので、「爺いどうしで、何やってんだ」とふざけ合っていたのに。翌日に、前の猫たちが眠る寺に連れて行った。
あいつがやってきて丸16年が過ぎていたが、猫の時間ははやい。人間の年齢でいえば80歳を超えているが、それでも毎日プロレスごっこをしていた頃と何も変わらなかった。老成もせず、利口にはならず、はしゃぎあい、じゃれあい、一緒に昼寝をしているうちに、どちらも同じように年をとった。ずっと楽しかったな。もう猫と暮らすことはできないが、猫と一緒に暮らす前には、勝手に押しかけてきた野良猫たちとのいろいろな出会いと別れもあった。巨大な長老猫が死んだ後は、近くにある寂れた公園にたまに行くと、彼女とそっくりな長毛の白猫が、いつも同じ場所にいてくれた。早い春に散歩にでかけ、誰もいないどこかでゆっくりと日本酒を飲んでいたい。その時はきっと、あいつによく似た野良猫が現れて、一杯つき合ってくれるような気がしている。