至上の愛


オカルト雑誌が興隆していた頃があった。ムー、トワイライトゾーンUFOと宇宙ボーダーランド、他に一般の青年誌などでも特集が組まれたりもしていた。大予言 超古代文明 UFO イルミナティ 秘密結社 偽書と古代史 UMA 超科学 霊魂と転生など、毎月よくネタを探せるものだと感心した。今多く発行されている健康誌と同じようなものだろうか。しかしそれらを組み合わせると、時によくできた話があり、そこにはSF的想像力の萌芽があった。ちょうどその頃、正統的な文学や芸術から外れた異端の作品が、澁澤龍彦種村季弘らによって広く紹介され始めた。絵画では名画の隠された意味といった解説書は近年、中野京子や西村文彦らによって数多く出版されている。そこにはただ美しいだけではない暗黒がある。美術館で展示されることのないエロティック絵画や春画などでは、もう何でもありだ。オカルティズムやエロティシズムは人の歴史と共にあり、今ある陰謀論やカルトは、それらを恐ろしく劣化させたものに過ぎない。
テレビからは低俗な番組や過激な表現が消えた。街からも猥雑さや匂いは消えている。そして人の免疫力は失われていく。オカルティズムやエロティシズムは本来、笑いに変換できるものだ。美や感動ばかりを求める無知が、理解できないものを信じたり、恐れたり、あるいは攻撃をするような事にもなる。NHKプロパガンダ映画に関する番組をやっていた。ゲッペルスエイゼンシュテインモンタージュ理論に基づく映画を観て、「邪悪な思想も、すぐれた芸術作品として観せれば、大衆を洗脳できる』と言ったが、それは今の消費社会でも変わらない。恋愛映画のように見せたプロパガンダ映画であるカサブランカのように、それはいたるところに巧妙に仕掛けられている。
Eテレでは今、宇宙論の番組を放映している。この宇宙は138億年前に素粒子と反素粒子がぶつかり消滅していく中で、数億個の中から生まれたかすかなズレが創った。古いSF小説では、人が実験室で宇宙創生を再現し、そこにできた小さな宇宙の中の惑星に文明が生まれるというテーマはよくある。神とはそういう想像力の事だ。そこには献金や現世利益などあるわけもなく、そこにある幸福は非生産と無償である。