72時間


NHK”72時間”の再放送のリクエストで一番多かったのが、「秋田の冬の自販機」だった。この番組にはわびしさやせつなさやはかなさがある。ふとたちどまって感じるそれこそが、人生は面白いと思わせてくれる。ひとり暮らしを始めた頃のアパートがあった駅の降り口側には店など何もなかった。駅前を流れる玉川上水を少し行くと、一軒だけ食料品店があった。その横の狭いスペースに自販機のコーナーがあり、うどんそば、カップヌードル、ハンバーガーなどを売っていて、暗闇の中にその灯りがぼんやりと浮かんでいる。部屋には本とコタツはあったが、他には何もない。眠れずに歩いていた深夜、ポケットに残っていた硬貨でうどんを買い温まった。冬の透明な空気の中のあの時のうどんの一杯を思うと、今も美食や洒落た場所など居心地の悪さしか感じないのだ。バブルのよう時期も少しはあったが、「何もないことは、そんなに悪くはない」と思っていたあの頃と、今も何も変わらない。