紫煙はのぼり、ぼんやりとしている


猫を撫でながら、一日を過ごす。散歩に出て小川や池にプカーッと浮かんでいる鴨や、まったく動かない鷺や亀をぼんやりと眺めながらカップ酒をあける。生物の徹底した体力温存を見習う。肉食の動物が獲物を捕獲する時でさえ無理をする事はない。人間の異常な過剰さが文明や文化を生んだ。他の生物からみれば、それは単に迷惑で厄介な存在でしかないのだ。

OKINAWA1972


琉球王国非武装中立琉球処分、日本の愛国教育、沖縄戦、戦後の本土にいた沖縄県民の強制帰還と沖縄の軍事基地化、マッカーサーの「沖縄を返還しなくても日本では反対運動はおきない。沖縄人は日本人ではないからだ」という言葉、その後の祖国復帰運動と沖縄返還時の核密約。沖縄にとっての祖国とは何なのだろう。スコットランド独立運動のようなことがあってもおかしくはないが、世界中の問題がそうであるように、困ったことに沖縄にも石垣や与那国、他の離島との間で同じ問題が存在してしまうのだ。
『マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや』(寺山修司)

琉球共和国―汝、花を武器とせよ

 

利己的遺伝子


福岡伸一が「人は長い進化の末、遺伝子の呪縛から解放された生物だ。人は自由であっていい」というようなことを語っていた。生物学の論争には興味もない。ドーキンスの利己的遺伝子を基にした竹内久美子著作も痛快なものだった。人類の歴史は利己的遺伝子の戦略に踊らされていたにすぎない。遺伝子の戦略を知ることで、人はようやく”生きる意味”や”人生の目的”という呪縛から解放されたと思わせてくれたのだ。人は何かになり、何かを排除するのではなく、何者かから自由になれる存在であると信じたい。

春画


昨年の秋は永青文庫で「春画展」が開催された。今年の秋は原美術館篠山紀信の写真展「快楽の館」が開催される。 江戸の春画春本はワ印(笑いのワ)、閉塞的な社会状況を笑い飛ばすためのものだった。同調圧力が強まり、全体主義の風を感じる今こそ、権威や権力を笑い飛ばしたい。『あらゆる性的倒錯の中で、純潔こそがもっとも危険なものである』、バーナード・ショーの言葉だ。オリンピックでは福原愛にもらい泣きをしたりもしたが、彼の『人類から愛国主義者をなくすまでは、平和な世界は来ないであろう』という言葉も思い出した。

 

たそがれ・あやしげ


遠い日に読んでいた眉村卓の、どこか懐かしく奇妙な異世界に迷い込む話が好きだった。人気の場所や評判の店などにはまったく興味がない。情報機器は異界への入り口を閉ざすものとしか思えない。何も持たずに散歩をしていると路地や古道に迷い込み、そこにあった薄暗い酒屋に入ると棚には初めて見る酒が並んでいる。いつのまにか何でもない町の光景が、奇怪な建造物や不思議な人のように思えてくる。そこはもう地図にはない幻の場所なのだ。

サマータイムブルースが聴こえる


夏になると見慣れた街ではなく、海や山で一杯やりたくなる。若い頃は夜に酒瓶を持って飲みながらでかけ、朝が来ると疲れて電車で眠りながら帰ってくるというのがいつものパターンだった。酒とギャンブルの日々だった30の時だ。いつまでもこんな暮らしはできないだろうなと思っていた。「今年はパッと、伊豆七島にナンパ旅にでもいきますか」と若い連中に声をかけると、7,8人での旅になった。行きの船は夜行だ。船室に行くとどこも人の山で、甲板で飲む事にした。東京湾をでると海は荒れていて、ひどく揺れる。船酔いするくらいなら酒で酔おうと飲み続けた。朝、島に着くと眠り、目が覚めると夕方だった。外に出るとウロウロしているのは男ばかりで、海の家のような店で飲んでいる女子を見ると、ナンパ待ちの行列までできていた。宿に戻ると、皆も疲れた顔をして帰って来る。そこでまた飲み会になり、朝までチンチロリンの勝負になった。結局、街にいるのと何ひとつ変わらないのだ。最後の夜になった。ブラブラと時間を潰して宿に戻ると、「今日は女の子がいて、楽しんじゃったよ」と言ってみた。すると一番若い男が「俺は素人とはやった事がないんだ」とバックからコンドームをだした。みると涙ぐんでいる。そして他の連中も、唯一の妻帯者だったバンドマンまでもが「奥さんから持たされた」とバックからだしてきたのだ。えー、そんなにマジだったのか。「ゴメン、冗談だよ」と謝り、「翌朝には船がでるので、海で一杯やって寝ようや」と小さな入江に行った。ウイスキーを飲んでいると、一番若い男が「バカヤロー」とコンドームを投げた。翌日の海は来るときとはうってかわって穏やかだった。船室に入るとどこの島から乗ってきたのか、女子のグループもけっこういた。彼女たちと健全にトランプをしたりバカ話をしているうちに、あっという間に竹芝桟橋に着いた。『手当たり次第に声かけて みんな振られたよ』 いくつになっても、そんなんでいいんじゃない。

晩秋


もう随分と前から夏バテだ。散歩にでるとハアハアと舌を出し、アスファルトと室外機のあまりの熱さにベビーカーに乗せられている犬の気分になる。酒がうまい晩秋と早春が恋しいので、せめて映像でも観てみる。夏眠中です。