計画停電の夜


津波原発、絶望的な映像が毎日テレビで流れていた。あの時、計画停電の夜が何度かあった。作業を急いでいると突然、すべての電源がおちた。もう何もできない。何もしなくてもいいのだと思うと、今までに味わったことのない解放感が溢れた。開けっ放しの入り口から冬の冷気が入ってくるがエアコンも電気ストーブも使えない。人が求め続けてきた物は闇の中では意味をなさないのだ。外には街灯も信号も消えた暗闇だけがある。机の上に置いた電池式のランタンの灯りに誘われて、人が集まってきた。机の周りに置いた椅子やその後ろで肩を寄せ合い、誰かが持ってきた酒で体を暖めた。軽口をたたき、笑った。ガソリンスタンドはずっと閉鎖されていて、車も使えなかったのだ。このまま停電が続くのならポケットにワンカップを入れて、月明かりをたよりに『歩いて帰ろう』と空想していた。しかし、日々の暮らしに追われる日常はすぐに戻った。皆が夢から覚めたように、それぞれが働く世界へと帰って行った。災害は毎年起こっている。いつか『破局噴火』も起こるだろう。幸福と絶望は、生と死は同じ地平にある。人は何と途方もない勘違いを生きているのだろう。