FREE WORLD


涼を求めて散歩をしていると、突然工事中の巨大な直線道路が現れる。付近には新しいコンクリートハコモノが建てられていて、歩いている人の姿はない。よく見る光景だ。そしてエアコンなしでは生きられない国になっていく。この国のエアコン設置率は92パーセントだが、フランスでは25パーセントにすぎない。夜の気温がこの国よりも低くなることが多く、古い建造物を保存している事で、エアコンの設置が不可能であったりもするのだが、環境への負荷が大きいという意識が強いというのも確かだ。この国ではまだ緑の伐採と再開発が続いている。
世界は少年ジャンプ化している。テレビのニュースを見れば、世界中で現実とは思えないキャラクターの人たちが、整合性のない言説を平気で繰り返し、それを当たり前のように受け入れている人たちがいる。権力と陰謀論やカルトとは相性がいい。歴史を振り返れば簡単にわかることだ。そして歴史は繰り返していくのだが、今の環境は過去とは比べ物にならないほど悪化しているし、兵器の威力は桁違いだ。今見ている光景が、人がメタバースの世界に閉じ込められていくディストピアに見える。人はいつまでも消えない得体の知れない小さな傷の痛みに耐えられず、それを忘れさせてくれる大きな物語を求めてしまう。それは他の生物にはただ迷惑な話だ。
私はまだ順調に妖怪化が進んでいるのだろうか。大人の顔色をうかがう子供の眼に、そうではない妖怪とみえているだろうか。誰もいない公園のベンチに座っていると、現れた子供たちが目の前ではしゃぎまわり、隣ではダンスの練習が始まった。いいぞ!では私は立ち去る事にしよう。子供たちよ、孤立を恐れるな。希望はそこにある。