ノマド


すぐ近くの川沿いに巨大な建造物がずっと建設中だった。何になるのだろうかと眺めていたが、先日郵便受けにアマゾンの作業員募集のチラシが入っていた。テレビのアマゾンのCMでは70歳の男性が笑顔で『生きがいを見つけました』と語っている。この国の経済も老人の安価な労働力なしでは持たない。アメリカでは工場や炭坑がなくなれば、町自体が消えてしまう。タイトルは聞き漏らしてしまったが、町山智浩がラジオで新しい映画を語っていた。どの国でも男よりも女の方が長寿だ。アメリカではひとりになった女性が、年金で暮らしていけるのはたった17パーセントに過ぎない。家賃が高額なため彼女たちの多くは車上生活者になる。その受け皿になっているのがアマゾンだ。何もない砂漠に巨大な倉庫と無料の駐車場を造り、そこで暮らしている老いた女性たちがいる。繁忙期には1日10時間、歩行距離20キロの作業をし、暇になれば仕事も減る。アマゾンは彼女たちのような都合のいい、便利で安価な労働力で成り立っている。彼女たちがそんな暮らしを捨てて、自由に旅するノマドとしての道を選ぶという内容のようだった。グレイトフル・デッドの旅を思い出した。それは年を重ねた人たちが楽しく生きる旅だ。
歩くことが楽しい季節は短い。殺人的な夏の暑さが終われば、すぐに絶望的な冬の寒さが来る。誰もこない場所にある畑から落ち葉焚きの匂いがして、木枯らしに凍えながら熱燗で体を暖める。しかし風がやめば雲は消えていて、空には無数の星が輝いている。スコセッシ監督のボブ・ディランの映像を観ていた。何をどう語ろうと、どうなったとしても、私たちはホーボーだ。定住が国家と戦争を生んだ。実りの秋が来、花が咲く春が来る穏やかな時間は幸福だが、その季節はあまりに短くすぐに失われる。心はいつも果てしない草原をゆくノマドなのだった。