いいんだぜ


更級日記”は平凡な一生を送った女性が、人生を振り返るという内容だ。父が任期を終え、上総から都へと旅をする道中がかなり長く書かれている。晩年に「あの頃の私はバカだったなあ」と少女の頃を思い起こすのだが、都の暮らしを夢み、”源氏物語”の世界に憧れていた12,3歳の、まだ何者にもなっていない頃の旅が一番輝いていたのだろう。それは今の私たちも変わらない。近くにある多摩丘陵は”平成狸合戦ぽんぽこ”で描かれたように開発されてしまったが、まだ多くの緑地も残っている。そこにある古道の樹々の間を歩けば、見上げた空の先はあの少女のいた平安時代の空へと繋がっているのだと思えてくる。この道はどこでもないどこかへと続いている。
ラジオでは宮台真司がもう何年も前からずっと、損得でしか動かず、ポジション取りばかりをしている『日本人の劣化』を語り続けている。橋本治が”バカになったか、日本人”を書いたのは6年前で、”知性の顛覆 日本人がバカになっていく構造”を書いたのは3年前だった。『歴史は繰り返す。一度目は悲劇として、二度目は喜劇として』この世界はでたらめな、出来の悪い喜劇だ。それでも人生は面白い。近くにある川で一杯やっていると風がそよぎ、そこが”寅さん”のいた荒川の土手になった。
何者でもいい。『いいんだぜ』と中島らもは歌っている。