天才


一杯やろうと深夜のテレビをつけると、知能指数188の天才青年を紹介する番組をやっていて、脳科学者の中野信子が脳を調べた結果を『空間認知能力』が突出していると語っていた(暗記力や読解力があるわけではない)。特別な学習をしなくてもピアノが弾け、交響曲が作曲できる。正確な写実画を描くこともできる。光の入射角や反射角、風の向きや速度なども即座に数値化でき、画面に再現できるようなのだ。彼は、文章を読むと書いた人物の知能指数がわかり、「ゲーテは200近くある」とも語っていた。
十代の頃の僕は図書館の本をジャンルを問わず、片っ端から読んでいた。小説も読んだが、登場人物への感情移入や物語への共感といった事にはあまり興味がなかった。この世界にはどうやら、『僕には理解できない風景が見えている人たちがいる』という事が新鮮で、興味津々だったのだ。同じものをみていても、人によって違う風景がみえている。幸福感も人によってまったく異なっている。すべてはその事を知るところから始まるのだ。僕は今、穏やかな昼下がりに猫と一緒に万年床にもぐりこんで、うつらうつらしている。やりたいことがあるわけでもなく、衣食住に興味があるわけでもない。スタイルを求めてもむなしいだけだ。僕は猫と同じ景色を見ながら、同じ幸福感に包まれて眠っている。