文学青年


平日の昼間の店には、健康の問題や職場の都合で仕事をやめたお客もけっこういた。時間潰しには丁度よかったのだろう。そしてそういう職場は決まって保険や年金などの社会保障がまったくないのだ。「で、これからどうするんですか」と聞くと、皆が「まあ、なんとかなるでしょう」と達観したような顔をしている。考えてみれば、休むことなく働いたあげくに借金などつくってしまっている自営業者たちに比べればよほどマシだと思っているに違いない。永遠の文学青年といった風情のAさんもそうだった。文学青年といっても私と同じくらいの年齢なのだが、どこか浮世離れをしている。Aさんは将来住むところがないのは困るので、中古マンションを買ったといった。調べてみると、確かに2~300万程度で買えるような物件だってあるようだし、買っても当面は大丈夫という貯蓄がある事もすごいが、それにしたってそんな風に使っていて、「で、これからどうするんですか」とついまた聞いてしまった。「同人誌仲間に売れている女流作家がいるので、一緒に暮らさないかな」と言いながら、私の知らない郷土の作家の話などをまた淡々と続けるのだった。人生なんて、何が起きるかわからない。Aさんを見習って、とりあえずは好きな作家の本でも読む事にした。