城山の猫


今住んでいる場所に越してきた頃は、道路が整備され始めた頃で今とは違う景色だった。その後道路が延伸し橋が二つでき、大型店もできた。そして府中に向かう旧道のバス通りにあった蕎麦屋や食堂は姿を消した。近くにある城山のあたりも随分と整備がされた。保存古民家がある後ろのハケ沿いが小ぢんまりとした公園になっているが、その頃は木や草がうっそうとしていて野良猫はみるが散歩をする人の姿もほとんどいなかった。町猫はボランティアの方が避妊などの世話をしていて、城山にも今はもういない。あの頃、たまにその道を歩いているといつも、古民家の後ろにある木製のデッキの手すりの上に巨大な長毛の白猫がいた。他の猫はバラバラと草むらなどにその姿を見かけたが、その猫はいつも同じ場所にいた。頭を撫でても泰然としていて、持っていた酒の肴をだしてみると悠然とした風情で口にする、その姿を見るのが好きだった。そんな日々が続いたある日、その場所を通ると姿は見えず、デッキの奥の草むらに布団がみえた。近づいてみると掛け布団の下に子供のようなものが見えて驚いたが、そこに長毛の猫が寝ていたのだ。布団の周りには7~8匹の猫が座り、その姿をじっとみていた。人にできることは何もない。そして次にその場所を通った時にはもう何もなかった。あれほどいた野良猫の姿も見つけることができない。歩いているとようやく、遠くの草むらにうずくまっている一匹の猫を見ただけだった。