たそがれ・あやしげ


遠い日に読んでいた眉村卓の、どこか懐かしく奇妙な異世界に迷い込む話が好きだった。人気の場所や評判の店などにはまったく興味がない。情報機器は異界への入り口を閉ざすものとしか思えない。何も持たずに散歩をしていると路地や古道に迷い込み、そこにあった薄暗い酒屋に入ると棚には初めて見る酒が並んでいる。いつのまにか何でもない町の光景が、奇怪な建造物や不思議な人のように思えてくる。そこはもう地図にはない幻の場所なのだ。