サマータイムブルースが聴こえる


夏になると見慣れた街ではなく、海や山で一杯やりたくなる。若い頃は夜に酒瓶を持って飲みながらでかけ、朝が来ると疲れて電車で眠りながら帰ってくるというのがいつものパターンだった。酒とギャンブルの日々だった30の時だ。いつまでもこんな暮らしはできないだろうなと思っていた。「今年はパッと、伊豆七島にナンパ旅にでもいきますか」と若い連中に声をかけると、7,8人での旅になった。行きの船は夜行だ。船室に行くとどこも人の山で、甲板で飲む事にした。東京湾をでると海は荒れていて、ひどく揺れる。船酔いするくらいなら酒で酔おうと飲み続けた。朝、島に着くと眠り、目が覚めると夕方だった。外に出るとウロウロしているのは男ばかりで、海の家のような店で飲んでいる女子を見ると、ナンパ待ちの行列までできていた。宿に戻ると、皆も疲れた顔をして帰って来る。そこでまた飲み会になり、朝までチンチロリンの勝負になった。結局、街にいるのと何ひとつ変わらないのだ。最後の夜になった。ブラブラと時間を潰して宿に戻ると、「今日は女の子がいて、楽しんじゃったよ」と言ってみた。すると一番若い男が「俺は素人とはやった事がないんだ」とバックからコンドームをだした。みると涙ぐんでいる。そして他の連中も、唯一の妻帯者だったバンドマンまでもが「奥さんから持たされた」とバックからだしてきたのだ。えー、そんなにマジだったのか。「ゴメン、冗談だよ」と謝り、「翌朝には船がでるので、海で一杯やって寝ようや」と小さな入江に行った。ウイスキーを飲んでいると、一番若い男が「バカヤロー」とコンドームを投げた。翌日の海は来るときとはうってかわって穏やかだった。船室に入るとどこの島から乗ってきたのか、女子のグループもけっこういた。彼女たちと健全にトランプをしたりバカ話をしているうちに、あっという間に竹芝桟橋に着いた。『手当たり次第に声かけて みんな振られたよ』 いくつになっても、そんなんでいいんじゃない。