どうにかなるさ 2


日時を調節して誰かと飲みに行くというのも何かと億劫だ。第一、飲みたいのはいつかではなく今なのだ。フラリと顔を出せば顔見知りがいる、行きつけの飲み屋もなくなった。店をやめ散歩が愉しい季節になれば、缶ビールでも持って訪ねたいと思っていた知り合いの店も今はもうない。店をやっていた頃、缶ビールやカップ酒を飲みながら馬鹿話をし、ほろ酔いで町へ消えていくお客がうらやましかった。自由で金もかからない。いい店だったな(笑)。皆が”どうにかなるさ”と・・・

LIVING WITH WAR


世界はヤンキー化しているが、知性に勝る経験値を持つ人がいるとはとても思えない。この国の野党をみれば、民進党など一刻もはやく消滅してほしいとさえ思うが、鳩山由紀夫の言ってきた事は間違ってはいなかった。石橋湛山の「小日本主義」「日中米ソ平和同盟」に通じるが、それにしても「対米従属からの脱却」と言うと、この国では見事に潰されてしまう。政治家は「大日本」へと向かい、個よりも「全体主義」という若い人が増えている。ニール・ヤングが「音楽で世界を変えることができた時代は過ぎ去った」と語ったのは10年前だった。



文学青年


平日の昼間の店には、健康の問題や職場の都合で仕事をやめたお客もけっこういた。時間潰しには丁度よかったのだろう。そしてそういう職場は決まって保険や年金などの社会保障がまったくないのだ。「で、これからどうするんですか」と聞くと、皆が「まあ、なんとかなるでしょう」と達観したような顔をしている。考えてみれば、休むことなく働いたあげくに借金などつくってしまっている自営業者たちに比べればよほどマシだと思っているに違いない。永遠の文学青年といった風情のAさんもそうだった。文学青年といっても私と同じくらいの年齢なのだが、どこか浮世離れをしている。Aさんは将来住むところがないのは困るので、中古マンションを買ったといった。調べてみると、確かに2~300万程度で買えるような物件だってあるようだし、買っても当面は大丈夫という貯蓄がある事もすごいが、それにしたってそんな風に使っていて、「で、これからどうするんですか」とついまた聞いてしまった。「同人誌仲間に売れている女流作家がいるので、一緒に暮らさないかな」と言いながら、私の知らない郷土の作家の話などをまた淡々と続けるのだった。人生なんて、何が起きるかわからない。Aさんを見習って、とりあえずは好きな作家の本でも読む事にした。

昼寝


暑い午後、それでも窓からはいい風が入ってきて、昼におきたばかりなのだがとりあえず何もせずまた昼寝をしておこうという毎日だ。隣で長くなり欠伸をしている猫をぼんやりと眺めながら、とりとめのない事を考えている。散歩の途中、町の小さな公園のベンチで一服していた時の事だ。足元では数羽の鳩がのんびりと餌をついばんでいて、砂場の縁にはそれをみながら、まったく動かない猫がいた。のどかな光景だと眺めていると突然、猫が一羽の鳩を咥えて走り去って行った。もし野良として生きていたら、私にはそんな才能はとてもない。明け方に近い深夜に、コンビニに行こうと部屋をでると、驚くほどの数の野良猫の集会に出くわした事もあった。顔見知りの猫もいたが、会話を止めた猫たちの間を押し黙って通り抜けた。私があの中にいたとしたら、うまくやれる社会性があるとはとても思えない。もし私が野良として生きていたら・・・。たぶん誰かのおこぼれにあずかりながら放浪を続け、その果てにどこかで野垂れ死ぬのだろう。うつらうつらしながら、そんな事を思っていた。酔生夢死でいい、他に何があろう。

深夜の電車


缶ビールとカップ酒をチビチビ飲りながらの休日散歩の帰り、電車に乗るとぐっすり寝てしまった。しばらくして目をさますと、左肩の上には女性の頭が、右肩の上にはゴツイ男の頭がのっていた。”寄り添いながら眠っている猫たちとまったく変わらないなあ”と思いながら、またすぐにうつらうつら。降車駅に着き、”この人たちはどこで降りるのだろう”と、熟睡中の二人を起こさないようにそっと立ち上がった。行儀よく規則正しく息苦しい世の中だ。たまには、"終電も終わった終着駅で乗り過ごした二人が呆然と顔を見合わせる"なんて事があったっていいんじゃない。

シンギュラリティ


レイ・カーツワイルのいう”技術的特異点”は2030年代にも起こりうるとラジオで誰かが語っていた。コンピューターが人間の頭脳を超えてしまえば理解不能になり、理解するにはコンピューターと融合するしかない。それがポストヒューマンだ。肉体を捨てれば、いつか無限の星間航行さえ可能になる。大多数の人間は旧人類として存在することになるのだろうが、その時には今までの価値観はまったく無意味なものになってしまうのだろう。それはそれで、幸福なことなのかもしれない。地上ではもう一度、何もない道を歩き、路傍のどこにでもある花の傍らで酒を飲み、なんとなく空を見上げている。そんな何でもない事でいいのだと・・・。