”ミュージック・ポートレイト”の人生の終わりに聴きたい一曲で、”くるり”の岸田繁が「朧月夜」と語っていた。これは同感だ。菜の花と桜の頃がいい。紅葉の頃なら「里の秋」、冬になれば「冬の星座」、どれもカップ酒と最後の煙草の一服によく似合う。しかしその前に、年ごとに長くなる厳しい夏を乗り切ることができるのだろうか。
Night Walk
厳しい夏がようやく終わったと思ったら、厳しい冬が来た。テレビで気象予報士が「今年の秋は3週間でした」と言っていた。気候までもが極端になっていく。寒風の夕暮れ時は佇んでいる事もできない。しかし深夜の帰り道では樹々のざわめきもやみ、穏やかな静けさに包まれる事が多い。夜は優しい。
無用の美
一億総活躍などという言葉が何の羞恥心もなく使われる日が来るとは思わなかった。生産性や有用性では事物は測れず、むしろ無用のものこそ美しい。
ジョルジュ・バタイユ『至高性』
ジョルジュ・バタイユ『至高性』
紫煙はのぼり、ぼんやりとしている
猫を撫でながら、一日を過ごす。散歩に出て小川や池にプカーッと浮かんでいる鴨や、まったく動かない鷺や亀をぼんやりと眺めながらカップ酒をあける。生物の徹底した体力温存を見習う。肉食の動物が獲物を捕獲する時でさえ無理をする事はない。人間の異常な過剰さが文明や文化を生んだ。他の生物からみれば、それは単に迷惑で厄介な存在でしかないのだ。